セクター深掘り上級
損害保険3社の決算を紐解く―東京海上・MS&AD・SOMPOの利益構造とバランスシートを徹底比較
TDnet公開XBRLデータで東京海上HD・MS&AD・SOMPO HDの経常利益・保険引受純益・資産運用純益・自己資本・株主還元を5年分比較。SOMPOのIFRS移行や株式分割の影響も解説。
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損害保険決算分析東京海上
目次
損害保険大手3社(東京海上ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOホールディングス)は、自然災害の頻発化、国内損害保険市場の成熟、政策保有株式の圧縮、そして海外事業の拡大という構造変化の中にある。本稿ではTDnet公開の決算短信XBRLデータ(FY2022〜FY2026)を基に、経常利益・保険引受純益・資産運用純益・バランスシート・株主還元の各側面から3社の財務特性を定量的に比較する。
本記事はTDnet公開の決算短信(XBRL)データに基づき作成しています。SOMPOホールディングスはFY2025からIFRSに移行しており、保険固有項目(正味収入保険料・経常利益等)が一部非開示となっている点に留意してください。
3社合計(算出可能な年度のみ)でみると、正味収入保険料はFY2022の107,125億円からFY2023には120,750億円へ拡大した。純利益は3社合計でFY2022の9,079億円からFY2025には19,899億円まで倍増し、FY2026は16,818億円となっている。総資産は3社合計でFY2022の660,674億円からFY2026には811,984億円まで拡大した。
| 指標(3社合計) | FY2022 | FY2023 | FY2024 | FY2025 | FY2026 |
|---|---|---|---|---|---|
| 正味収入保険料 | 107,125 | 120,750 | 算出困難 | 算出困難※1 | 算出困難※1 |
| 経常利益 | 12,733 | 8,575 | 算出困難※2 | 算出困難※2 | 算出困難※2 |
| 親会社株主帰属純利益 | 9,079 | 6,290 | 10,650※3 | 19,899 | 16,818 |
| 総資産 | 660,674 | 671,604 | 算出困難※3 | 733,685 | 811,984 |
| 有価証券 | 457,893 | 444,469 | 算出困難※1 | 算出困難※1 | 算出困難※1 |
※1 SOMPOはFY2025以降IFRS移行により非開示。※2 SOMPOの経常利益はFY2024・FY2025が非開示のため3社合計不可。※3 SOMPOのFY2024データが提供データに存在しないため東京海上・MS&AD2社合計(10,650億円)。
FY2022からFY2025までの経常利益CAGR(3年)を比較すると、東京海上HDとMS&ADの伸長ペースが鮮明になる。SOMPOはFY2024・FY2025の経常利益が非開示(IFRS移行)のため算出困難である。
CAGR = (14,600 / 5,674)^(1/3) - 1 ≈ 37.0%| 指標 | FY2022 | FY2023 | FY2024 | FY2025 | CAGR(3年) |
|---|---|---|---|---|---|
| 東京海上HD 経常利益 | 5,674 | 5,039 | 8,425 | 14,600 | 約37.0% |
| MS&AD 経常利益 | 3,904 | 2,311 | 4,164 | 9,289 | 約33.5% |
| SOMPO 経常利益 |
直近期の前年比(提供データのChangeInProfit)は東京海上HD +32.6%、MS&AD +68.8%、SOMPO +162.2%となっており、SOMPOの伸び率が最も大きい。ただしSOMPOはFY2023に大幅減益(3,155→1,225億円)していたため、その反動という側面が大きいと考えられる。
保険引受純益と資産運用純益の比較では、東京海上HDが両分野で他社を上回る規模を確保している。SOMPOは直近確定データがFY2023のため、他社(FY2025)と単純比較できない点に注意されたい。
| 指標(億円) | 東京海上HD(FY2025) | MS&AD(FY2025) | SOMPO(FY2023) |
|---|---|---|---|
| 保険引受収益 | 62,755 | 54,005 | 40,907 |
| 資産運用収益 | 19,886 | 11,993 | 3,257 |
| 保険引受純益 | 12,821 | 8,211 | 4,927 |
| 資産運用純益 | 14,440 | 9,422 |
東京海上HDは資産運用純益が保険引受純益を上回っており、有価証券売却純益(5,470億円)が資産運用収益を大きく押し上げている構図がうかがえる。MS&ADも同様に有価証券売却純益(5,097億円)の拡大が資産運用純益を牽引している。
保険引受費用の構成要素を比較すると、各社の保険ポートフォリオの違いが表れる。
| 指標(億円) | 東京海上HD(FY2025) | MS&AD(FY2025) | SOMPO(FY2023) |
|---|---|---|---|
| 正味支払保険金 | 27,658 | 24,890 | 19,476 |
| 損害調査費 | 1,938 | 2,428 | 1,358 |
| 諸手数料及び集金費 | 10,180 | 8,907 | 7,031 |
| 責任準備金等繰入額 | 3,923 | 7,347 |
MS&ADは責任準備金等繰入額が7,347億円と3社中で突出しており、生命保険料(6,086億円)の増加も影響している可能性が考えられる。東京海上HDは諸手数料及び集金費が10,180億円と大きく、代理店網の規模を反映していると見られる。
利息及び配当金収入・有価証券売却純益・資産運用純益を並べると、東京海上HDの運用規模の大きさが際立つ。
| 指標(億円) | 東京海上HD(FY2025) | MS&AD(FY2025) | SOMPO(FY2023) |
|---|---|---|---|
| 利息及び配当金収入 | 10,003 | 4,951 | 2,414 |
| 有価証券売却純益 | 5,470 | 5,097 | 168 |
| 資産運用純益 | 14,440 | 9,422 | 2,119 |
東京海上HDとMS&ADは有価証券売却純益が資産運用純益の3〜5割程度を占めており、政策保有株式の売却進捗が運用収益に大きく寄与していると考えられる。SOMPOのFY2023時点では有価証券売却純益が168億円と小さいが、直近(FY2025・FY2026)はIFRS移行によりP/L項目が非開示のため、提供データからは算出困難である。
有価証券・責任準備金・支払備金・価格変動準備金・有価証券評価差額金を比較する。
| 指標(億円) | 東京海上HD(FY2025) | MS&AD(FY2025) | SOMPO(FY2023) |
|---|---|---|---|
| 有価証券 | 192,629 | 177,600 | 98,081 |
| 責任準備金等 | 177,671 | 162,521 | 77,365 |
| 支払備金 | 54,115 | 33,011 | 23,823 |
| 価格変動準備金 | 1,504 | 2,517 |
SOMPOホールディングスはFY2025から国際財務報告基準(IFRS)に移行しており、有価証券・責任準備金等・価格変動準備金といった保険固有項目がFY2025以降のデータで非開示となっている。日本基準の他2社と直接比較する際は、この基準差を踏まえる必要がある。
東京海上HDの支払備金は54,115億円と3社中最大で、自然災害の多発や海外再保険事業の拡大を反映している可能性が考えられる。
直近期(FY2026)の営業CF・投資CF・財務CF・自社株取得・総還元額を比較する。
| 指標(億円) | 東京海上HD | MS&AD | SOMPO |
|---|---|---|---|
| 営業CF | 13,905 | 9,540 | 7,064 |
| 投資CF | -4,027 | -7,195 | -2,329 |
| 財務CF | -6,420 | -1,387 | -4,126 |
| 自社株取得 | - | -2,214 |
東京海上HDの営業CFは5年間で11,022億円(FY2022)から13,905億円(FY2026)まで安定的に拡大している。MS&ADも2,367億円から9,540億円へと大幅に増加しており、保険引受・資産運用両面での収益改善がCFに反映されていると見られる。総還元額(自社株取得を含む)は各社とも近年拡大傾向にあり、株主還元姿勢の強化がうかがえる。
3社とも近年株式分割(いずれも1対3)を実施しているため、分割前年度のEPS・配当は分割調整後の値を併記する。
東京海上HDはFY2023、MS&ADはFY2024、SOMPOはFY2025にそれぞれ約1対3の株式分割を実施している。分割前年度のEPS・1株配当は分割前基準であり、分割調整後(÷3)の値で比較する必要がある。
| 指標 | 東京海上HD | MS&AD | SOMPO |
|---|---|---|---|
| FY2022 EPS(分割調整後) | 約204.5円 | 約158.2円 | 約214.7円 |
| FY2022 1株配当(分割調整後) | 約85.0円 | 約60.0円 | 約70.0円 |
| FY2026 EPS | 279.35円 | 342.98円 | 701.03円 |
| FY2026 1株配当 | 218.00円 | 160.00円 |
FY2026の配当性向を算出すると、東京海上HDは約78.0%(218/279.35)、MS&ADは約46.6%(160/342.98)、SOMPOは約21.4%(150/701.03)となる。SOMPOはEPSが701.03円と急伸しているため、配当性向は3社中で最も低く見えるが、利益の急伸が配当政策に反映されるにはタイムラグがある可能性が考えられる。
各社が公表する通期純利益予想と、提供データ上の直近実績(FY2026列)を比較する。
進捗率 = 直近実績純利益 / 通期業績予想純利益| 指標 | 東京海上HD | MS&AD | SOMPO |
|---|---|---|---|
| 通期純利益予想 | 8,300億円 | 4,250億円 | 4,900億円 |
| 直近実績純利益 | 5,312億円 | 5,106億円 | 6,400億円 |
| 進捗率 | 約64.0% | 約120.1% | 約130.6% |
MS&ADとSOMPOは直近実績が通期予想を既に上回っている一方、東京海上HDの進捗率は約64%にとどまる。これは決算開示のタイミングや会計期間の取り方の違いによるものと考えられ、東京海上HDが下期偏重の収益構造を持つ可能性、あるいはMS&AD・SOMPOが業績予想を保守的に設定している可能性が考えられる。提供データからは進捗率の背景にある具体的な四半期別要因までは特定できない。
海外M&A、IFRS移行、自然災害リスクの3点は、いずれも提供データの範囲を超える定性的な論点である。
東京海上HDは無形資産・のれんの規模が3社中最大であり、海外保険事業(北米等)の買収を積極化してきたことが背景にあると見られる。今後も海外事業の収益貢献度が財務構造に影響を与え続けると考えられる。
SOMPOはFY2025からIFRSに移行したことで、保険負債の評価方法や利益認識のタイミングが日本基準と異なる可能性があり、他2社との単純比較が今後一段と難しくなると考えられる。IFRS第17号(保険契約)の適用により、保険引受純益の概念自体が変化している可能性もある。
自然災害リスクについては、東京海上HDの支払備金が5年間で拡大傾向にあることから、大型台風や豪雨災害の増加が損害保険各社の引受費用構造に影響を与えている可能性が考えられる。ただし、コンバインドレシオ等のリスク指標は提供データに含まれないため、収益性への定量的な影響は本稿では評価できない。
3社の財務データから読み取れる特性を以下に整理する。
本記事はTDnet公開の決算短信(XBRL)データに基づく財務分析です。 特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。
正味収入保険料: 元受保険料や再保険収支を反映した、保険会社が実質的に収入として認識する保険料。
経常利益: 保険引受収益・資産運用収益等から保険引受費用・資産運用費用・営業費及び一般管理費等を差し引いた、本業の業績を示す利益指標。
保険引受純益: 保険引受収益から保険引受に関連する費用を差し引いた純益。保険引受業務そのものの収益力を示す。
資産運用純益: 資産運用収益から資産運用費用を差し引いた純益。利息配当金収入や有価証券売却損益等が含まれる。
責任準備金等: 将来の保険金・給付金の支払いに備えて積み立てる負債項目。保険会社のバランスシートで大きな比重を占める。
支払備金: 既に発生した保険事故に対して将来支払うべき保険金のうち、未払い分として積み立てる負債。
価格変動準備金: 有価証券等の価格変動リスクに備えて積み立てる準備金。
ROE概算: 提供データの純利益・純資産等から簡易的に算出した自己資本収益率の概算値。
実効税率: 法人税等の金額を税引前利益で除して算出した、実質的な税負担率。
CAGR: Compound Annual Growth Rate(年平均成長率)。複数年にわたる成長率を年率換算した指標。
配当性向: 1株当たり配当を1株当たり利益(EPS)で除した比率で、利益のうち配当に回す割合を示す。
IFRS: 国際財務報告基準。SOMPOホールディングスはFY2025から日本基準からIFRSへ移行している。
EPS: Earnings Per Share(1株当たり利益)。株式分割時は分割調整後の値との比較が必要。
| 3,155 |
| 1,225 |
| - |
| - |
| 算出困難 |
| 2,119 |
| 1,640 |
| 1,108 |
| 有価証券評価差額金 | 8,689 | 13,924 | 6,657 |
| -2,292 |
| 総還元額 | - | 4,463 | 3,693 |
| 150.00円 |