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損保3社の決算を紐解く:東京海上の資産運用益急増とMS&ADの保険引受改善が際立つFY2025

東京海上、MS&AD、SOMPOの損保大手3社のFY2025通期決算を徹底分析。東京海上は資産運用益が前年比2倍超で純利益1兆円超、MS&ADは保険引受純益が倍増。3社の収益構造の違いと今後の注目点を財務データから読み解く。

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損害保険決算分析東京海上MS&ADSOMPO

はじめに

損害保険業界の大手3社—東京海上ホールディングス(以下、東京海上)、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(以下、MS&AD)、SOMPOホールディングス(以下、SOMPO)—のFY2025通期決算が出揃った。本稿では、TDnet公開の決算短信(XBRL)データに基づき、3社の財務状況を定量的に比較分析する。

株式分割に関する注意
3社とも近年株式分割を実施しています:

  • 東京海上:FY2023に約1:3分割
  • MS&AD:FY2024に約1:3分割
  • SOMPO:FY2025に約1:3分割

FY2025の1株当たり指標は分割後ベースです。過去との比較には調整が必要です。

また、SOMPOはFY2025からIFRS(国際財務報告基準)へ移行しており、一部の保険固有タグ(INS接尾辞)が限定的となっている点にも留意が必要だ。

損害保険業界全体のトレンド

3社合計の主要指標推移から業界全体のトレンドを俯瞰する。以下はFY2021からFY2025までの5年間の推移である。

指標(3社合計、億円)FY2021FY2022FY2023FY2025
正味収入保険料100,309107,125120,750135,537
経常利益7,88212,7338,57523,889
親会社株主帰属純利益4,4859,0796,29019,899
総資産630,264660,674671,604733,685
有価証券445,713457,893444,469370,229※

※SOMPO FY2025はIFRS移行により有価証券データが「-」のため、東京海上+MS&ADの2社合計

FY2025の正味収入保険料は135,537億円と、FY2021比で35.1%増加した。これは海外事業の拡大と国内の保険料率改定が寄与していると考えられる。一方、経常利益は23,889億円と前年比+178.5%の大幅増となり、純利益も1兆9,899億円と3倍超に拡大した。この利益急増は、後述する東京海上の資産運用益急増が主因である。

経常利益のトレンド分析

各社の経常利益推移と5年間のCAGR(年平均成長率)を比較する。

会社FY2021FY2022FY2023FY20255年CAGR
東京海上2,6675,6745,03914,60053.0%
MS&AD3,0653,9042,3119,28931.9%
SOMPO2,1503,1551,225--
CAGR = (終値/始値)^\{1/期間\} - 1 例:東京海上 = (14,600/2,667)^\{1/4\} - 1 = 53.0%

東京海上の5年CAGRは53.0%と驚異的な成長率を示す。特にFY2025は前年比+189.8%と約3倍に急増した。MS&ADも31.9%の高成長を遂げており、FY2025は前年比+301.9%と4倍超の増益となった。SOMPOはIFRS移行によりFY2025の経常利益データが「-」だが、FY2023までの傾向では変動が大きい。

各社のYoY成長率を見ると、FY2025は東京海上が経常収益+0.7%、純利益+0.5%と安定成長を示す一方、MS&ADは経常収益+1.2%、純利益+0.9%とやや高めの成長率を記録した。SOMPOは純利益-0.5%と微減だが、これはFY2023の水準と比較したものである。

収益構造分析:保険引受と資産運用の二本柱

損害保険会社の収益は、「保険引受」と「資産運用」の二本柱で構成される。各社の収益構造を比較する。

保険引受純益の比較

保険引受純益の定義
保険引受純益 = 保険引受収益 - 保険引受費用
保険事業本体の収益性を示す指標です。

会社FY2021FY2022FY2023FY2025FY2025 YoY
東京海上4,8458,0419,68712,821+32.4%
MS&AD−3,7503,2424,1818,211+96.4%
SOMPO5,0065,5744,927--

MS&ADはFY2021に保険引受赤字(-3,750億円)を計上したが、その後V字回復を遂げ、FY2025には8,211億円の黒字へ転換した。前年比では+96.4%と倍増しており、保険引受の収益性が大幅に改善したことがわかる。東京海上も12,821億円と堅調に推移し、前年比+32.4%の増益を達成した。

資産運用純益の比較

資産運用純益の定義
資産運用純益 = 資産運用収益 - 資産運用費用
有価証券や貸付金などの運用成果を示します。

会社FY2021FY2022FY2023FY2025FY2025 YoY
東京海上5,8186,4986,71414,440+115.1%
MS&AD13,8107,4975,5009,422+71.3%
SOMPO2,2833,0112,119--

東京海上の資産運用純益は14,440億円と前年比+115.1%(約2.1倍)に急増した。これは有価証券売却益が8,422億円(前年1,845億円)と4.6倍に拡大したことが主因である。利息及び配当金収入も10,003億円(前年6,904億円)と44.9%増加しており、金利上昇局面での運用巧者ぶりが際立つ。

MS&ADも資産運用純益が9,422億円と前年比+71.3%増加したが、FY2021の13,810億円には及ばない。有価証券売却益は5,616億円(前年1,959億円)と2.9倍に増えたものの、東京海上ほどの急拡大ではなかった。

保険引受費用の内訳分析

保険引受費用の主要項目を比較し、各社のコスト構造を確認する。

項目(億円)東京海上 FY2025MS&AD FY2025SOMPO FY2023
正味支払保険金27,65824,89019,476
損害調査費1,9382,4281,358
諸手数料及び集金費10,1808,9077,031
責任準備金等繰入額3,9237,3471,640
支払備金繰入額1,9693,1333,228
保険引受費用合計49,93345,79435,979

※SOMPOはFY2025データが「-」のためFY2023を使用

正味支払保険金は東京海上が27,658億円と最大だが、これは正味収入保険料53,051億円に対して52.1%の支払率となる。MS&ADは24,890億円で、正味収入保険料46,743億円に対して53.3%の支払率である。諸手数料及び集金費は東京海上が10,180億円と最も高く、販売チャネルの多様化に伴うコストと見られる。

責任準備金等繰入額はMS&ADが7,347億円と突出している。これは生命保険部門の責任準備金積み増しの影響と考えられる。支払備金繰入額も各社とも増加傾向にあり、自然災害や大型事故の増加を反映している可能性がある。

資産運用の詳細分析

資産運用の内訳を詳細に比較する。

項目(億円)東京海上 FY2025MS&AD FY2025SOMPO FY2023
利息及び配当金収入10,0034,9512,414
有価証券売却益8,4225,616755
有価証券売却損2,951518586
有価証券売却純益5,4705,097168
資産運用収益19,88611,9933,257
資産運用費用5,4462,5711,137
資産運用純益14,4409,4222,119

東京海上の利息及び配当金収入10,003億円は、MS&ADの4,951億円の約2倍に達する。これは後述するように、東京海上の有価証券残高が19.2兆円とMS&ADの17.8兆円を上回ることに加え、運用ポートフォリオの違いが影響していると考えられる。

有価証券売却純益は東京海上が5,470億円、MS&ADが5,097億円と拮抗している。両社ともFY2024以降の株式市場の好調を背景に、保有株式の売却益を積極的に実現したと見られる。一方、SOMPOのFY2023の有価証券売却純益は168億円に留まり、保守的な運用姿勢が窺える。

資産運用費用は東京海上が5,446億円と高いが、これは有価証券売却損2,951億円を含むためである。売却損は売却益とセットで発生するため、積極的なポートフォリオ入れ替えを行った結果と解釈できる。

バランスシート分析

各社のB/S主要項目を比較する。

項目(億円)東京海上 FY2025MS&AD FY2025SOMPO FY2025
総資産312,373262,412158,900
有価証券192,629177,600-
現金及び預貯金10,71121,397-
貸付金31,4039,098-
買入金銭債権30,5193,013-
金銭の信託0.126,633-
責任準備金等177,671162,521-
支払備金54,11533,011-
価格変動準備金1,5042,517-
純資産51,03540,52842,261
自己資本比率16.3%15.2%-

SOMPO IFRS移行の影響
SOMPOはFY2025からIFRS移行により、保険固有タグのデータが限定的です。上記「-」表記はデータ不足によるものです。

東京海上の総資産は31.2兆円と3社中最大で、MS&ADの26.2兆円、SOMPOの15.9兆円を上回る。有価証券は東京海上が19.3兆円、MS&ADが17.8兆円と、両社とも総資産の6割超を有価証券で運用している。

貸付金は東京海上が3.1兆円とMS&ADの9,098億円の3.5倍に達し、貸付運用に積極的な姿勢が見て取れる。一方、買入金銭債権も東京海上が3.1兆円と、MS&ADの3,013億円を大きく上回る。MS&ADは金銭の信託が2.7兆円と多く、運用手法の多様化を図っている。

資本の部詳細

その他の包括利益累計額の内訳を比較する(FY2025)。

項目(億円)東京海上MS&ADSOMPO
有価証券評価差額金8,68913,924-
為替換算調整勘定11,8684,063-
繰延ヘッジ損益−98−283-
その他の包括利益累計額20,54817,040-

東京海上の為替換算調整勘定は11,868億円と、MS&ADの4,063億円の約3倍に達する。これは海外事業の規模の違いを反映しており、東京海上の海外展開の積極性が数値に表れている。一方、有価証券評価差額金はMS&ADが13,924億円と東京海上の8,689億円を上回り、保有株式の含み益がより大きいことを示唆する。

責任準備金等は東京海上が17.8兆円、MS&ADが16.3兆円と、保険負債の規模も総資産に比例している。支払備金は東京海上が5.4兆円、MS&ADが3.3兆円で、東京海上の方が未払保険金の積み立てが厚い。価格変動準備金はMS&ADが2,517億円と東京海上の1,504億円を上回り、リスクバッファーを多く積んでいる。

キャッシュフローと株主還元

各社のキャッシュフロー推移と株主還元政策を比較する。

項目(億円)東京海上 FY2025MS&AD FY2025SOMPO FY2025
営業CF13,4506,6015,730
投資CF1,646−5,587−2,722
財務CF−11,884−6,595−4,816
自社株取得2,6902,508-
総還元額2,6902,508-

※SOMPOの自社株取得・総還元額はFY2023のデータ(580億円)が最新

東京海上の営業CFは13,450億円と3社中最大で、保険事業の収益力の高さを示す。投資CFは+1,646億円とプラスに転じており、有価証券の売却超過を意味する。これはFY2025の有価証券売却益8,422億円の計上と整合的である。

財務CFは東京海上が-11,884億円と最も大きなマイナスで、配当と自社株取得による株主還元を積極的に実施したことがわかる。自社株取得は2,690億円と、MS&ADの2,508億円と拮抗している。

MS&ADは営業CF 6,601億円に対して投資CFが-5,587億円と、有価証券への投資超過となっている。金銭の信託が2.7兆円と多いのは、この投資CFの一部が信託商品に振り向けられた結果と考えられる。

1株当たり指標と配当政策

各社の1株当たり指標を比較する。ただし、株式分割の影響があるため、FY2025の数値は分割後ベースであることに留意が必要だ。

会社FY2025 EPSFY2025配当配当性向FY2024 EPS(参考)FY2024配当(参考)
東京海上542.16172.0031.7%351.59123.00
MS&AD445.52145.0032.5%231.83270.00
SOMPO250.90132.0052.6%--
配当性向 = 配当 / EPS 例:東京海上 = 172.00 / 542.16 = 31.7%

東京海上のEPSは542.16円と3社中最高で、前年の351.59円から54.2%増加した。配当は172.00円で、配当性向は31.7%と比較的低めに抑えている。MS&ADのEPSは445.52円で前年の231.83円(分割前基準では約695円)から92.2%増加した。配当は145.00円で配当性向は32.5%である。

SOMPOのEPSは250.90円と3社中最も低いが、配当は132.00円と手厚く、配当性向は52.6%に達する。これは株主還元を重視する姿勢の表れと見られる。

過去5年間のEPS推移を見ると(分割調整前)、東京海上はFY2021の232.13円からFY2022に613.46円へ急増したが、FY2023の株式分割により187.33円(分割前換算で約562円)となった。その後FY2024が351.59円、FY2025が542.16円と順調に増加している。MS&ADも同様にFY2021の255.79円からFY2022に474.52円、FY2023に299.80円(分割前換算で約900円)と推移し、FY2025は445.52円に達した。

業績予想と進捗率

各社の通期業績予想とFY2026四半期累計実績を比較し、進捗状況を確認する。

会社通期予想(純利益)Q3累計実績進捗率
東京海上9,300億円8,992億円96.7%
MS&AD5,790億円6,571億円113.5%
SOMPO3,350億円5,183億円154.7%
進捗率 = Q3累計実績 / 通期予想 例:東京海上 = 8,992 / 9,300 = 96.7%

東京海上の通期純利益予想は9,300億円だが、Q3累計で既に8,992億円と96.7%に達しており、上方修正の可能性が高い。MS&ADは予想5,790億円に対してQ3累計6,571億円と既に達成し、進捗率113.5%である。SOMPOは予想3,350億円に対してQ3累計5,183億円と大幅に超過し、進捗率154.7%と突出している。

この高い進捗率は、3社とも下期に集中する傾向がある季節性要因に加え、資産運用益の上振れが寄与していると考えられる。特にFY2025は株式市場の好調と金利上昇局面が重なり、予想を上回る運用成果を挙げた可能性がある。

今後の注目点

提供データには含まれないため定性的な考察となるが、今後の注目点を3つ挙げる。

海外事業の拡大とM&A戦略

東京海上の為替換算調整勘定11,868億円が示すように、海外事業の規模は年々拡大していると見られる。3社とも国内市場の成熟化を受けて、成長余地の大きい海外市場への展開を加速している可能性がある。特に新興国市場や再保険ビジネスへのM&A投資が、今後の成長ドライバーになると考えられる。

IFRS移行の影響

SOMPOがFY2025からIFRS移行したことで、今後は国際比較がしやすくなる一方、過去データとの連続性が途切れる。IFRS17(保険契約基準)により、責任準備金の評価方法や収益認識のタイミングが変わるため、見かけ上の利益率やROEにも影響が出る可能性がある。東京海上やMS&ADも将来的にIFRS移行を検討している可能性があり、会計基準の統一が業界全体の課題となっている。

自然災害リスクと気候変動対応

正味支払保険金の増加傾向や支払備金の積み増しは、自然災害の頻発・大型化を反映していると考えられる。台風、洪水、地震などの巨大災害リスクに備え、各社は再保険の購入や価格変動準備金の積み立てを強化している可能性がある。今後、気候変動に伴う災害リスクの評価精度向上と、保険料率への適切な反映が経営課題となるだろう。

総括:3社の財務特性

まとめ
**東京海上ホールディングス** - 資産運用益の急拡大が際立つ(FY2025: 14,440億円、前年比+115%) - 有価証券売却益8,422億円と利息配当金10,003億円のダブル効果 - 海外事業の規模が最大(為替換算調整勘定11,868億円) - 総資産31.2兆円、純利益1兆552億円と3社中トップ - 配当性向31.7%と適度な株主還元 **MS&ADインシュアランスグループHD** - 保険引受純益の改善が顕著(FY2025: 8,211億円、前年比+96%) - 資産運用純益も9,422億円と高水準 - 金銭の信託2.7兆円と運用手法の多様化 - 有価証券評価差額金13,924億円と含み益が厚い - 業績予想を上回る進捗率113.5% **SOMPOホールディングス** - FY2025のIFRS移行によりデータ限定的 - 配当性向52.6%と株主還元重視の姿勢 - 業績予想を大幅に超過する進捗率154.7% - 総資産15.9兆円と3社中最小だが、純資産4.2兆円と健全性は高い

3社の決算を総合すると、FY2025は資産運用環境の好転が業績を大きく押し上げた年だったと言える。東京海上は運用益の急拡大、MS&ADは保険引受の改善、SOMPOは高い株主還元と、各社の特徴が明確に表れた。今後は海外展開の加速、IFRS移行、自然災害リスク管理といった共通課題に、各社がどう対応するかが注目される。

本記事はTDnet公開の決算短信(XBRL)データに基づく財務分析です。特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は自己責任でお願いいたします。

用語集

正味収入保険料: 再保険に出した分を差し引いた、保険会社が実質的に引き受けた保険料

保険引受収益: 保険料収入など、保険本業から得られる収益の総額

保険引受費用: 保険金支払、損害調査費、代理店手数料など、保険引受に関わる費用の総額

保険引受純益: 保険引受収益から保険引受費用を差し引いた、保険事業本体の利益

資産運用収益: 有価証券の利息・配当、売却益など、資産運用から得られる収益

資産運用純益: 資産運用収益から資産運用費用を差し引いた、資産運用の利益

責任準備金: 将来の保険金支払に備えて積み立てる準備金

支払備金: 既に発生しているが未払いの保険金に対応する準備金

価格変動準備金: 有価証券の価格変動リスクに備えて積み立てる準備金

有価証券評価差額金: 保有有価証券の時価と簿価の差額(含み損益)

為替換算調整勘定: 海外子会社の財務諸表を円換算する際に生じる差額

CAGR: Compound Annual Growth Rate(年平均成長率)の略。複数年にわたる成長率を年率換算したもの

IFRS: International Financial Reporting Standards(国際財務報告基準)の略。国際的に統一された会計基準

配当性向: 当期純利益のうち配当として株主に還元する割合

ROE: Return On Equity(自己資本利益率)の略。純利益÷純資産で計算される収益性指標

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