- この記事で学べること
- JGAAP・IFRS・US-GAAPの基本的な特徴
- 基準の違いが利益や資産に与える主な影響
- のれん、研究開発費、在庫、リースの扱いの違い
- 数字を比較しやすくするための簡単な調整方法
- 基準差が株価指標やROEに与える影響の考え方
- 実際の決算分析で注意すべき注記やチェック項目
- 初心者が陥りやすい誤解と回避のコツ
- 概念の説明 会計基準とは、企業が決算書を作るときのルールです。国語の文法のようなもので、同じ出来事でも、どの文法を使うかで表現が少し変わります。投資の世界では、主に日本のJGAAP、国際的なIFRS、アメリカのUS-GAAPの三つがよく登場します。
JGAAPは日本の基準で、日本企業の多くが使っています。IFRSは世界で共通化を目指す基準で、海外展開が大きい日本企業も採用が増えています。US-GAAPはアメリカの基準で、米国上場企業が中心に使います。どれも正しいルールですが、表し方の癖が違います。
身近なたとえで言うと、同じ料理を日本風、洋風、アメリカ風に盛り付けるイメージです。材料は同じでも、盛り付け方が違うと見た目や食べる順番が変わるように、会計基準が違うと利益や資産の見え方が変わります。
この違いは、単なる書き方の違いに留まりません。投資家が見る利益、自己資本、負債、キャッシュフローといった数字そのものが動くことがあるため、比較の際には注意が必要です。
- なぜ重要なのか 企業の価値を判断するとき、投資家は売上や利益、ROE、PERなどの数字を使います。ところが、会計基準の違いで、まったく同じ実力の二社でも利益が高く見えたり低く見えたりします。基準差を知らないまま数値だけを並べると、リンゴとミカンを比べるようなものです。
特に影響が大きいのは、のれんの扱い、研究開発費の計上、在庫の評価方法、リースの計上方法などです。これらは利益、資産、負債、そして指標の分母や分子を変えてしまいます。たとえば、IFRSではのれんの償却がないため、同じ買収でもJGAAPより利益が高く見えやすいことがあります。
海外株と国内株を比べるときはもちろん、日本株同士でもIFRSとJGAAPの比較で差が出ます。基準差の特徴を知っておくと、数字の裏側にある実態をより正確に読み取れるようになります。
- 計算方法 ここでは、代表的な論点をステップで確認します。暗記より、数字がどう動くかの感覚をつかみましょう。
- のれん 買収時に生じる差額です。JGAAPでは多くの場合で一定期間にわたって費用化します。IFRSとUS-GAAPでは原則として定期的な費用化はせず、必要に応じて一気に減らす減損という形をとります。
例 のれん100億円、JGAAPで10年償却の場合
年間償却費 = 100億円 ÷ 10年 = 10億円JGAAPでは営業利益が毎年10億円小さくなります。IFRSやUS-GAAPではこの定期費用がなく、その分、平常時の利益は大きく見えます。
- 研究開発費 新製品開発などの費用です。JGAAPとUS-GAAPでは多くの場合、発生時に全額費用。IFRSでは条件を満たす開発段階の支出は資産として計上し、後で少しずつ費用化します。
例 当期の研究開発支出30億円、うち20億円をIFRSで資産化、5年で均等償却
当期費用 = 資産化しない分 10億円 + 償却 20億円 ÷ 5年 = 14億円同じ支出30億円でも、JGAAPやUS-GAAPの当期費用は30億円、IFRSの当期費用は14億円になり、IFRSの利益が高く見えます。一方で、IFRSでは資産が20億円増えるため、自己資本比率などの見え方も変わります。
- 在庫評価とLIFO 在庫の原価の並べ方です。価格が上がる局面で、US-GAAPはLIFOという方法を選べますが、JGAAPとIFRSはLIFOを認めません。LIFOは新しい高い原価を先に売ったとみなすため、売上原価が重くなり、利益は低く、在庫は軽く見えます。
例 単価が100円から120円に上昇、100個仕入れて80個販売 先入先出法では売上原価は100円×80個 = 8000円。LIFOでは120円×80個 = 9600円。
売上総利益の差 = 9600円 - 8000円 = 1600円 分だけLIFOが小さい物価上昇時は、US-GAAPの企業がLIFOを使うと、利益が低く見え、在庫資産も小さく表示されます。
- リース 店舗や設備を借りる契約です。IFRSとUS-GAAPでは多くのリースを資産と負債に計上し、費用は減価償却と利息に分かれます。JGAAPでは一部が賃料として営業費用にまとめて出ます。
例 年間賃料12億円、IFRSで認識すると、営業費用から賃料が減り、代わりに減価償却と利息に分かれます。
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費IFRSでは賃料が減価償却に置き換わるため、EBITDAは大きく見えやすくなります。一方で負債が増えるため、純有利子負債やレバレッジの見え方は重くなります。
- 具体例・ケーススタディ 仮に同業の二社を比較します。A社はIFRS、B社はJGAAP。数値は簡略化した例です。
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公表数値 売上高 1000億円は両社同じ。A社の営業利益は120億円、B社は100億円。 B社はのれん償却10億円を計上。両社とも研究開発支出は30億円。A社はうち20億円を資産化し、5年償却。B社は全額費用。B社は賃料12億円を営業費用で処理。A社はリース資産計上済みで、その分、EBITDAが大きめに出ます。
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A社の研究開発費の影響 A社の当期費用は14億円。B社は30億円。研究開発だけで、A社の方が利益が16億円高く見えます。
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B社ののれん償却の影響 B社の営業利益には毎年10億円のれん償却が含まれます。これを調整して、のれん償却前営業利益を見ます。
この時点で、A社120億円とB社110億円で差は10億円です。
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リースの見え方の違いとEBITDA IFRSのA社は賃料が減価償却と利息に分かれるため、EBITDAが大きめに出ます。B社のEBITDAを近づけるには、賃料12億円を足し戻し、減価償却相当を差し引くという考え方が使えます。仮に賃料のうち減価償却相当が9億円、利息相当が3億円とすると、EBITDAを比べる際は賃料12億円を足し戻すと整合しやすくなります。
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研究開発の資産化の調整 A社は研究開発資産の償却を4億円だけ費用化しています。B社をIFRS風に調整するなら、B社の研究開発費30億円から資産化相当20億円を一旦足し戻し、代わりに償却4億円を引くイメージです。
これをB社の利益に加えると、研究開発の計上方法の差を均して比較できます。
- 小まとめ のれん償却の足し戻し 10億円、研究開発の調整 +16億円をすると、B社の比較用営業利益は 100億円 + 10億円 + 16億円 = 126億円。A社120億円よりB社が実はやや高い、という読み替えができます。表面の数字だけでは見えなかった差が浮かび上がります。
- 実践的な活用法
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同業他社を比較するとき 採用基準をまず確認します。のれん償却の有無、研究開発の資産化の有無、リースの扱いを注記からチェックし、必要に応じて簡易な足し戻しを行います。営業利益とEBITDA、どちらを見るかも整合させましょう。
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指標の読み方を微調整 PERやEV EBITDAは、利益やEBITDAの定義に影響を受けます。IFRS企業のEBITDAが大きく見えるのは、リースの会計処理の違いが一因のことがあります。比較時は、リース前後でのEBITDAを同じ基準に寄せる意識を持つと安心です。
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ROEの比較 IFRSで研究開発を資産化していると資産と自己資本が厚く見え、分母が大きくなるためROEが下がる場合があります。逆にJGAAPでのれん償却が重いと、分子の利益が小さく見え、ROEが低く見えます。可能なら、のれん償却前利益でのROEや、研究開発の資産化を均した指標も併用しましょう。
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物価上昇局面の在庫 US-GAAPでLIFOを使う企業は、売上総利益が控えめ、在庫資産も控えめに出ます。在庫回転率や粗利率の比較時は、評価方法の注記を必ず確認しましょう。
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キャッシュフローの視点 会計処理で利益は動いても、現金の出入りは同じことが多いです。例えば研究開発の資産化は、費用の時期がずれるだけで、現金支出は変わりません。最終判断では営業キャッシュフローやフリーキャッシュフローも確認すると、ブレが小さくなります。
- よくある誤解
- まとめ
用語集
JGAAP: 日本の会計基準。日本企業が主に採用。のれんを定期的に償却する扱いが一般的。
IFRS: 国際会計基準。世界での比較可能性を高めるためのルール。のれんは原則償却せず、必要に応じて一度に減らす減損方式。
US-GAAP: 米国会計基準。詳細な規定が多い。LIFOが認められるなど独自の特徴がある。
のれん: 企業買収で支払った金額が純資産を上回る部分。JGAAPは定期償却、IFRSとUS-GAAPは主に減損方式。
減損: 価値が落ちたと判断したときに、一気に資産価値を減らす会計処理。
研究開発費: 新製品や技術のための支出。IFRSは条件を満たす開発支出を資産化する場合がある。
棚卸資産: 商品や原材料などの在庫。在庫の評価方法で利益と資産の見え方が変わる。
LIFO: 後入先出法。新しく仕入れた在庫から先に売れたとみなす方法。US-GAAPで認められる。
リース: 資産を借りる契約。IFRSとUS-GAAPでは多くのリースを資産と負債に計上する。
収益認識: 売上をいつどのように計上するかのルール。基準間で細部の違いがある。