企業深掘り上級
競争優位性(モート)の見極め方
持続的な競争優位性の正体を、粗利益や営業利益の構造から読み解く。ネットワーク効果、スイッチングコスト、無形資産、規模の経済などの種類と、実務的な計測手順を解説します。
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競争力定性分析
目次
代表的なモートは、無形資産(ブランド・特許)、ネットワーク効果(使う人が増えるほど価値が上がる)、スイッチングコスト(乗り換えの手間・学習コスト)、規模の経済(大量生産でコスト低下)、コスト優位(独自のサプライチェーンなど)、規制・ライセンス(参入障壁)です。実務では、このうち複数が重なっているかを確認します。
モートは「説明が上手い会社の物語」ではなく、財務数値、とくに粗利益(売上総利益)や営業利益に痕跡が残ります。価格を上げても売れる、販促を減らしても売れる、競合が増えても利益率が下がりにくい、といった現象が、粗利率や営業利益率の形で現れます。
加えて、モートの有無は資本効率(ROIC)に直結します。高いリターンで投下資本を回収し続けられる企業は、自己資本・負債のどちらを使っても価値を積み上げやすい。実務では、粗利益の質(再現性・安定性・改善余地)と、営業費用構造(販管費の伸び方や固定費のレバレッジ)を併せて判断します。
変動係数が低いほど、価格競争や景気変動の打撃を受けにくい可能性を示します。
1を長期で上回り上昇傾向なら、広告や営業に依存せず売れている可能性。
業界平均を安定的に上回るROICは、モートの強さを示唆します。
ユーザー数の二乗に近い収益性の伸びが示唆される場合(ARPUの上昇、紹介経由の獲得比率の上昇)はネットワーク効果の候補。
売上が10%増で営業利益が30%増など、規模拡大で利益が伸びやすい構造かを確認。
販管費率低下と解約率低下は、スイッチングコストとネットワーク効果の兆候。紹介比率の上昇は獲得効率改善(CAC低下)で、LTV/CACの上振れにつながります。
ケースB: 量産メーカー(規模の経済+サプライチェーン優位)
原価率の継続的な低下は、規模の経済やコスト優位を示唆。価格引き下げ競争でも利益を守れる余地が生まれます。
価格決定力の検証 同業他社と比べ、原価率が同程度でも粗利益率が高止まりし、値上げ後の数量が維持されていれば、ブランド・プロダクトの差別化が強い可能性。四半期ごとの値上げイベントの後で数量と粗利率を確認します。
「守りの強さ」の点検 粗利益の変動係数を5~7年で算出し、景気後退時の落ち込みが相対的に小さいかを見る。販促費削減時に売上が維持されるなら、スイッチングコストや定着度が高い可能性。
ROICギャップの持続 ROICが業界平均より継続的に高く、同時に再投資額の増加に対してROICが大きく低下しなければ、モートが拡大中であるサイン。投下資本回転(売上/投下資本)とマージンの両面を分解します。
Cohort/解約の読み込み SaaSなどでは、期別の顧客群の売上推移(コホート)でリテンションを可視化。新規顧客の単価上昇が既存紹介に牽引される場合、ネットワーク効果の深化を疑う。
原価・販管費の弾力性 原価率低下が一時的(原材料相場)か構造的(工程改善・サプライチェーン再設計)かを、有価証券報告書の注記・セグメント資料で突き合わせます。
競争優位性(モート): 他社が簡単に真似できず、長期にわたり高い収益性を守る仕組み。堀の比喩。
粗利益(GrossProfit): 売上高から売上原価を差し引いた利益。価格決定力や製品差別化の度合いが反映されやすい。
営業利益(OperatingIncome): 粗利益から販売費・一般管理費・研究開発費などの営業費用を引いた利益。
ROIC: 投下資本利益率。NOPAT(税引後営業利益)を投下資本で割った資本効率の指標。
ネットワーク効果: 利用者が増えるほど製品・サービスの価値が高まり、さらに利用者を呼ぶ循環が生まれる現象。
スイッチングコスト: 他社製品へ乗り換える際の時間・費用・学習コスト・データ移行リスクなどの総コスト。
規模の経済: 生産量や取扱量が増えるほど、固定費の薄まりや調達力向上で単位当たりコストが下がる現象。
LTV/CAC: 顧客生涯価値を顧客獲得コストで割った指標。獲得効率とモートの持続性を示す。
価格決定力: 値上げをしても売上数量や顧客維持が崩れにくい力。ブランドや差別化に支えられる。
投下資本: 事業運営のために投入された資本の合計。運転資本と固定資産から過剰現金などを調整したもの。