財務計算中級
持続可能成長率(SGR)の計算
外部資金に頼らず、企業がどれだけの成長を続けられるかを測る「持続可能成長率(SGR)」を、ROEと配当性向から計算し、実践での使い方や注意点まで解説します。
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成長率ROE配当
目次
持続可能成長率(Sustainable Growth Rate, SGR)とは、外部から新たに株式資本を調達せず、既存の利益の内部留保だけで企業が長期的に維持できる売上や資本の成長率の目安です。シンプルに言えば、「自分が稼いだお金のうちどれだけを事業に回して、どのくらいの効率(ROE)で増やせるか」を年率にしたものです。
SGRは、利益のうち株主に返す部分(配当)を除いた残り(内部留保)が自己資本を増やし、その自己資本がどれだけ利益を生むか(ROE)で次の年の規模が決まる、という回転の速さを表します。企業が外部からの増資に頼らずに拡大できる「天井」を示すため、成長戦略の現実性を測るのに役立ちます。
実務では、SGRは「ROE × 留保率(1 − 配当性向)」で求めるのが一般的です。ここで留保率は、稼いだ利益のうち会社に残す割合を意味します。たとえばROEが高く、利益の多くを再投資できれば、SGRは高くなります。
加えて、SGRは「財務レバレッジを大きく変えない」ことを前提にしています。つまり、借入比率を急に上げ下げせず、現状の資本構成を大きく崩さない範囲で続く成長率、という理解が実務的です。
投資家にとって重要なのは、企業が掲げる売上・利益成長が資金面で裏付けられているかです。SGRは、その裏付けの「内部資金の限界」を教えてくれます。もし企業が高い成長を掲げていても、SGRを大幅に上回る場合は、増資やレバレッジ拡大、運転資本の圧縮など追加の施策が前提になっている可能性があります。
また、バリュエーションの観点でも、長期の利益成長率の仮定は企業価値を大きく左右します。SGRは、ROEと配当政策から「無理なく期待できる成長率」を示すため、長期シナリオの現実性チェックに使えます。特に成熟企業では、SGRが低いのに高い成長を前提にした株価は、期待先行かもしれません。
さらに、経営の質を見るうえでも有用です。ROEを高める工夫(収益性の改善、資産効率の向上、適切な資本構成)と、過大な配当で将来の成長余地を削っていないかのバランスを、SGRは一目で示してくれます。
SGRの基本式は以下です。
SGR = ROE × 留保率 留保率 = 1 − 配当性向例1(基本)
例2(高配当だがROE高)
例3(自社株買いの考え方) 自社株買いは会計上「配当」と同様に外部への資本還元とみなし、実質的な配当性向に加味すると、SGRの直感がぶれません。たとえば配当性向30%、自社株買いが純利益の20%相当なら、実質配当性向 = 50%、留保率 = 50%として扱います。
ケースA:成長目標との整合性
ケースB:配当政策の見直し余地
ケースC:自社株買いを含む総還元
ケースD:高ROE・低投資需要の成熟企業
成長ストーリーの妥当性チェック 企業の中期計画の売上・利益成長率がSGRを恒常的に上回っていないか確認します。恒常的に上回るなら、増資・レバレッジ・運転資本改善など前提条件をIR資料で探し、実現性を評価します。
配当政策・自社株買いの持続性評価 総還元性向が高すぎると留保率が下がり、SGRが低下します。成長投資が必要な局面で総還元を上げすぎていないか、逆に投資機会が乏しいのに留保を厚くしすぎていないかを見ます。
ROE改善の打ち手の効果測定 デュポン的に ROE = 利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ と分解できます。どこを改善すればSGRが何%押し上がるか、感度をざっくり見積もると、経営の重点と投資判断が結びつきます。
バリュエーションの現実性チェック 高成長前提の株価に対し、SGRが低い場合は期待先行の可能性があります。逆にSGRが高いのに成長期待が織り込まれていない銘柄は、再投資機会や配当政策の変化がカタリストになり得ます。
銘柄スクリーニング 目安として、安定期の企業なら ROEが二桁かつ総還元性向が50%前後で SGRが5%超を維持、のような条件でフィルタすると、成長と還元のバランスが取れた候補を素早く抽出できます(業種特性に応じて調整)。
持続可能成長率(SGR): 外部から新株発行などの資金調達を行わず、内部留保だけで長期的に維持可能な成長率の目安。
ROE: 自己資本に対してどれだけの利益を上げたかを示す指標。自己資本利益率。
配当性向: 当期純利益のうち、配当として株主に還元する割合。
留保率: 当期純利益のうち、社内に残して再投資に回す割合。1 − 配当性向(+自社株買いを含める場合も)。
デュポン・モデル: ROEを利益率、総資産回転率、財務レバレッジに分解して収益性の源泉を分析する枠組み。
総還元性向: 配当と自社株買いの合計を純利益で割った還元割合。実質的な配当性向の拡張概念。