PEGレシオの定義と、PERとの違い
EPS成長率の取り方(予想と実績、単年とCAGR)の使い分け
PEGレシオの具体的な計算手順と数値解釈
成長株・景気敏感株・成熟株での使いどころと限界
PEGを使ったスクリーニングと組み合わせ指標の例
予想の不確実性を織り込む感度分析の方法
初心者が陥りやすい誤解と回避のコツ
PEGレシオは、株価が利益の何年分かを表すPERに「成長率」という要素を加え、成長を考慮して割安かどうかを見る指標です。直感的には、成長が速い企業は同じPERでも許容されやすい、という考えを数値化したものです。
一般的な定義は、PEG = PER ÷ EPS成長率(%)です。例えばPERが20倍で、今後のEPS成長率が年20%なら、PEGは1.0(20÷20)となります。経験則として、PEGが1.0前後は“成長を考慮すると妥当”、1.0未満は“割安気味”、1.5超は“割高気味”とされることが多いです。ただし業界特性や景気局面で解釈は変わります。
PERは現在の利益水準に対する割高・割安を示しますが、成長企業は利益が増えるため、将来のPERは自然に低下します。PEGは、この将来の変化を織り込んで“いまの価格は将来の伸びに見合うか”を測るレンズと考えると理解しやすいでしょう。
成長率を無視すると、高PER=割高という早計に陥りやすく、真に価値のある成長企業を見逃す可能性があります。PEGはPERだけでは見えない“成長に対する価格”の妥当性を点検し、見た目の割高感を補正します。
また、業種間の比較にも役立ちます。たとえばテックの高成長企業と、ディフェンシブな成熟企業では、許容できるPERの水準が違います。PEGを使えば、異なる成長前提をある程度共通土俵に乗せて比較できます。
一方で、成長率は予想に依存し不確実です。特に景気敏感・コモディティ・一過性特需の企業では、翌年のEPSが大きくぶれるため、PEGの信頼度は低下します。このため、PEGは“万能の正解”ではなく、“仮説づくりの補助線”として使うのがコツです。
ステップ1: PERを確認する(株価 ÷ 1株当たり利益)。通常は予想PER(今期または来期)を使います。
ステップ2: EPS成長率を決める。方法は主に2つです。
アナリスト予想の来期・中期EPS成長率(トップダウン)
過去の実績から算出する複利成長率CAGR(ボトムアップ)
ステップ3: どの期間を対象にするか決める(1年、3年、5年)。変動の大きい企業は3年CAGRなどが安定的です。
ステップ4: PEG = PER ÷ EPS成長率(%)を計算する。
EPS成長率を“%”で扱う前提で計算します。20%なら20で割ります。もし小数(0.20)で扱うとPEGが100倍ズレるため、方法を統一しましょう。
主要な式は以下の通りです。
PER = 株価 ÷ 1株当たり利益(EPS)
EPS成長率(単年) = (来期EPS - 今期EPS) ÷ 今期EPS × 100
EPS成長率(CAGR) = (将来EPS ÷ 現在EPS)^{1/年数} - 1
PEG = PER ÷ EPS成長率(%)
具体例1(単年予想ベース):
株価: 2,000円、今期EPS: 100円、来期EPS: 120円(+20%)
予想PER: 2,000 ÷ 120 = 16.7倍
PEG: 16.7 ÷ 20 = 0.84 → 成長を踏まえると割安気味
具体例2(3年CAGRベース):
現在EPS: 100円、3年後EPS予想: 172.8円
CAGR: (172.8 ÷ 100)^{1/3} - 1 = 20%
現在PER: 25倍 → PEG: 25 ÷ 20 = 1.25 → 妥当〜やや割高
EPSがマイナスや成長率がマイナスの場合、PEGは意味を失います(ゼロや負の数で割ることになるため)。この場合は、黒字化の確度や売上総利益の改善など、別の観点で評価しましょう。
ケースA(高成長×高PER):
予想PER: 40倍、EPS成長率: 40%
PEG: 40 ÷ 40 = 1.0
解釈: 見た目は高PERだが成長に見合う。競争優位が持続するか、投下資本利益率の維持、顧客獲得コストの回収など、質の確認が次のステップ。
ケースB(中成長×中PER):
予想PER: 18倍、EPS成長率: 12%
PEG: 18 ÷ 12 = 1.5
解釈: やや割高気味。配当利回りやキャッシュフロー安定性、価格決定力などを追加チェックし、安心料として払えるか判断。
ケースC(低成長×低PER):
予想PER: 10倍、EPS成長率: 5%
PEG: 10 ÷ 5 = 2.0
解釈: 成長対比では割高。資産バリュー(PBR、ネットキャッシュ)、自社株買いの継続性、サイクルの谷かどうかを検討。再評価余地があるなら投資対象になり得る。
ケースD(ボラティリティが高い業種):
コモディティ企業で翌期EPSが大幅増益予想(+80%)
予想PERが低く見え、PEGも小さくなるが、一過性の可能性大
解釈: 3年CAGRや正味サイクルで平準化した成長率で再計算すると、PEGが急上昇することが多い。
スクリーニングの目安:
成長を重視: PEG<1.0を候補に(ただし質の確認は必須)
幅を持たせる: PEG<1.5かつ時価総額や流動性の条件を加える
変動の大きい業種: 3年CAGRで計算し、PEG<1.2程度を目安
品質指標との組み合わせ:
PEGが低いだけでなく、ROEやROICが高く、営業キャッシュフローが安定しているかを確認
粗利率やリテンション率(サブスク型)など、成長の“中身”を点検
感度分析で“安全域”を見る:
成長率が想定より5ポイント低下した場合のPEGを再計算
例: PER 25倍、成長率20% → PEG 1.25。成長率15%ならPEGは1.67。許容できるかを事前に考える
バリュエーションの一貫性:
同じ銘柄で単年成長率とCAGRのPEGを両方算出し、ブレが大きい場合は予想の不確実性が高いサイン
併せてEV/EBITDA、PSR(売上高倍率)など、利益計上の歪みが少ない指標も参照
売り時のヒント:
株価上昇でPERが拡大し、同時に成長率が鈍化してPEGが1.5〜2.0へ上振れたら、部分利益確定や見直しを検討
“低PEGだから即買い”ではなく、“なぜ低いのか”を言語化しましょう。競争激化、規制、カスタマー獲得の失速、為替一巡など、低PEGには理由があります。
- 成長率を小数(0.20)で割ってしまい、PEGが100分の1になるミス。%で割る前提を統一すること。
- 単年の一過性増益(特損剥落、補助金、一時的価格高騰)を成長と誤認し、過小なPEGを鵜呑みにすること。
- 赤字やEPSが極端に小さい時にPEGを使ってしまい、無意味な結果を出すこと。
- 同業比較を無視して、異常に高いまたは低いPEGを文脈抜きで評価すること。
- PEGだけで売買判断を完結させ、事業の質(参入障壁、顧客維持率、ユニットエコノミクス)を見ないこと。
- PEGはPERを成長で割った指標で、成長を織り込んだ割安度を測るのに有効。
- 計算は「PER ÷ EPS成長率(%)」。%で割る前提を厳守する。
- 単年予想とCAGRを併用し、一過性と持続的成長を分けて評価する。
- 目安はおおむねPEG 1.0前後が妥当、1.5超は慎重に。業界文脈で補正する。
- マイナス利益や不安定なEPSの局面ではPEGの適用を避け、別指標で補う。
- 低PEGでも理由を点検。品質指標(ROE/ROIC、CF安定性)と組み合わせる。
- 感度分析で前提ずれに備え、売り時のシグナルとしても活用する。
PEGレシオ : PERをEPS成長率(%)で割った指標。成長を考慮した割安度を示す。経験則では1.0前後が妥当とされる。
PER : 株価収益率。株価を1株当たり利益(EPS)で割った倍率。現在利益に対する価格の高さを表す。
EPS : Earnings Per Share。1株当たり利益。企業の収益力を株式1株あたりに割り振ったもの。
EPS成長率 : EPSの伸び率。単年の予想伸びや、複利成長率(CAGR)で表すことが多い。
CAGR : 年平均成長率。初期値と最終値から複利ベースの平均的な年成長率を計算したもの。